葬送
(TT5 傭納 ゲーム中)
「例えばそう、あなたは僕を見捨てるべきで、そういうことをしてるから傭兵だったんじゃないんですか」
珍しく饒舌なイソップ・カールが、あざ笑うかのようなかすれた声を出して言った。なワーブは、黙って自分より幾分背の高い男を背中に背負って、なかば引きずるようにして歩く。
「僕は……、そう。死人を見るのが仕事ですからね。傭兵の方なんかも何人も見ましたけど。ナワーブさん」
「五月蠅いな、黙った方が良い。おしゃべりは柄じゃないだろう」
「いえナワーブさん。僕はそうでもないんですよ。死人とはよく会話をします。生きている人間が苦手なだけで」
「俺が死んでるって?」
「死ぬも同然でなにを言うことか。ねえナワーブさん。ここで死んでもまた荘園に帰ったら生き返ってしまうのに、助ける道理はありませんよ」
足がもつれそうになりながら、ナワーブは出口の方向へと進む。ドキドキと無駄にはやる心臓は、この馬鹿げた鬼ごっこゲームの狩人(ハンター)の接近を知らせていたが、そんなことは問題ではなかった。
「帰還者が多い方がいいに決まってるだろうが」
「共倒れになる確率が明らかに高い。多くの人を看ましたけど。背中に傷を受けて死んだ傭兵なんて見ないものですよ。お人好しなんですね」
「お人好しでいいさ、一人で帰るよりか幾分マシだ」
「一人でお帰りになったことがあるんですね……。ゲームにはどうですか、慣れましたか」
「最悪だ」
「重畳」
イソップは、クックッと押し殺すように笑って、「ねえナワーブさん」とまた無駄口を叩く。ナワーブは、こいつはこんなに話を聞かないやつだったろうか、と思いながら、テノールに耳を傾けた。
「もう僕たちは死んでいて、ここは死後の世界なのかもしれないって、誰かが言っていましたけれど」
「そんな想像はしたくもないな」
「もし、僕があなたをいつかどこかで納棺していたら、こんなにおもしろい話はありませんね。僕、顔覚えが悪いんです。もしかしたら、そういうこともあるのかも……」
すでにハンターはすぐそこに来ているという気配を感じた。脱出口はまだ遠い。イソップをおいていくという選択はそれでもナワーブにはできない。戦場で死んでいく仲間の体温が、思い出されるからだ。
「毎回忘れてしまうんです。荘園の方の顔……。でも、ナワーブさんは覚えられるかもしれないですね」
その声と、二人がハンターのレイピアに串刺しにされるのは同時だった。生存はもうないだろうとナワーブは薄れていく意識の確信しながら、それでも一人で死ぬよかましだ、とそれだけ思った。
おわり
あとがき
とくに意味ない