YOU too ODD
(チリオキ)
「フウン」
チリはアオキの持っていた書類を上から盗って、そこに写った写真を見て言った。とっっさのことでアオキは持っていた鞄を落としてしまい、拾おうとかがんだ頭に、「なあ」と言葉が降ってくる。
「チリちゃんとどっちがべっぴん?」
書類に写っていたかわいらしいお嬢さんと、チリではタイプがそもそも違った。それは意地の悪すぎる質問で、アオキは太い眉をひそめて、半目勝ちな目を細めながら「比べられませんよ」と言った。
「凡庸で取り柄のない自分には不釣り合いなくらい、どちらも……」
「キレイって?」
ニコリとチリが笑う。ああ、この人は怒っているのだな、とさすがの察しの悪いアオキにも解って、「勘違いしないでください、ただ、これは上司に渡されただけで」ときまりのわるい言い訳をした。チリは「なんやあ。せやったんか」とソレをきれいなままアオキに返す。
上司の娘さんだというお嬢さんは、全てがノーマルタイプな自分には不釣り合いなほどにかわいらしく、例えるならフェアリーのような魅力があった。アオキはそれを「良い女性だ」とは思ったが、自分の伴侶にしたいとは思わない。もし、全てが平々凡々で、ただそこにいるだけの、だけで、「ああ、この二人はふつうだな」、とそういうことを、全ての人に思わせるような人が居れば、それが自分の伴侶であろうとアオキは思っていた。
「そやな。アオキさんにはほんまにもったいないくらい、めんこい子やなあ」
「そうですよ。滅相もない……。上司は早く結婚をしろと、いうんですけど。今時結婚だけがノーマル(ふつう)ってわけでもないですし」
「アオキさんはほんまに普通にこだわるなあ」
チリは笑って、猫背気味に曲がったアオキの背を叩いた。アオキは、そのオーバーな態度にいつまでも慣れない。
「身の丈に合った生活でいいんです。なんにしても」
「じゃあ、やっぱりチリちゃんはすこし背ェが高すぎか!」
「そういう話ではなんですけど」
なんだかこの人と話していると疲れる、とアオキは思った。真意が見えない相手とやり合うのは、手持ちが解らない相手と勝負するに等しい。レートバトルでさえ、六匹を開示するというのに。
「なあ、もし。チリちゃんがちょっと背がひくうて、足がみじこうたら、アオキさんは良かったやろか?」
「そういう話では……。いや、ああ、でも。そうですね、それでもダメだと思います」
どういう話をされているのか、アオキは最初から理解していた。だから、最初とおなじように、「凡庸で何の取り柄もない自分には、あなたは刺激がつよい」と返した。
チリは傷ついたようにまた大きく笑って、「アオキさんのアホ!」と叫んで書類をまた取り上げ、くしゃくしゃにまるめてポケットに入れて去ってしまった。