グッドフューチャー・カムズユー
(みつたい 本誌ネタ ワンドロお題「トランプ」)
「トランプ占いやってやろうか」
九井がパラパラとトランプをめくりながら、大寿に言った。大寿は片眉をあげて、グローブを外しながら聞く。
「オマエ、そんな趣味があったのか?」
「ちょっとまあ、そこまでではないけど」
「ココのは当たらないぞ」
アジトのソファに転がった乾が、そう茶々を入れる。「イヌピー!」と怒る九井の訴えを、くあ、と彼はあくびをして黙殺した。
興味があるかないかで言えばなかったが、大寿は懐に一度いれた相手への付き合いは良かったので、トランプを弄る九井の隣にどかりと座り、「まあ、やってみろ」と言った。
「ボスはこういうとこいいよな。ほら、シャッフルしろよ」
「何回?」
「大寿って十六だっけ? 十七? まあ、年齢の倍シャッフルして」
九井に言われるまま、大寿はその大きな手でぎこちなくトランプをシャッフルする。混ぜ終え、渡すと、九井はそこから何枚か並べて手際よくめくって取り除いたり、並べ替えたりした。
「はい。上が過去、真ん中が現在。下が未来」
「フウン。さっぱりわかんねえな」
「まあ、わかんなくてもいいけど。そうだなあ、ボスの未来はよくなるってよ」
「ボス! ココが言うってことは悪くなるってことだぞ!」
「っせえなイヌピー!」
猫と犬のケンカのように言い合いを始めた九井と乾を横目に、大寿はトランプを見下ろした。未来はよくなるらしい。占いなど気にしたことがなかった大寿だったから、それをどうと思うこともなかった。どうせ迷信なのだ。アーメン。
・・・
それで、大寿の未来がよくなったかどうか、というのは賛否が分かれる。ただ、家を出て、一人で暮らすのは、悪くはなかった。家に残した熱帯魚ばかりが気がかりではあったが。
「大寿くん、今日何処行こっか」
これからずっと一人だろう、と大寿は思っていたが、なぜかオマケがついてきた。八戒にもなにも言わず、その兄貴分である三ツ谷がやたらと絡んでくるようになったのだ。
オマエは俺のなんなんだ、と言いたくてしかたなくて、しかしなんとなく言いづらくずるずると付き合いを重ねてしまった。はじめは鬱陶しいと思っていたのに、定期的に会ううちにツーリングなんてしてしまう始末だ。今までの人生、大寿にとって友人などと言える関係のものはいなかったが、この男はおそらくそういった部類のものであるだろう、と大寿は感じていたし、本人も勝手に友人面していた。
「どこでもいいだろ。ちょっと流すぞ」
「オッケー」
三ツ谷は、笑ってバイクのハンドルを握った。自分といてなにがそんなに楽しいのかわからなかったが、大寿もだんだんとこの男といることが不快でないことに気づいていた。気づいたときにはもうすっかり抜け出せないでいたのは自分の方であったのかもしれない、とすら思えるほどに。
「あのさ、ついたら言いたいことあるんだけど」
「ハア? まあ、聞くだけなら聞いてやる」
・・・
未来はよくなる、というのは所詮迷信なのだ。ブラックアウトする意識の中、大寿は最後に遠くに立つ花垣を見た。これで良いと、そう思える人生だった、と悔いは無かった。だが、ああ、もっと良い結果もあったのだろうか? フラッシュバックのように、大人になった自分が立っているのをイメージする。その隣には、ああ、誰かいただろうか? それはもしかして、三ツ谷なのではなかろうか? 大寿はそう思った。そう思ってしまった。その時点で全てが負けだった。全ては神のみぞ知る。アーメン。