ゴシップでもうれしい
(ココイヌ ワンドロワンライ「雑誌」)
その日のゴシップ誌に掲載されたのは、こうだ。
『バイク屋に裏社会の影!? 経営者のひとりは反社会組織「梵天」の幹部・九井一と幼馴染!』という汚い見出しの汚い記事が、砲撃のように世に放たれた。
気にするな、と竜宮寺堅は乾青宗に言った。もともと自分も社会からのはみ出し者だから、と付け加える。
「サンキュな」
青宗はレンチをくるりと手遊びで回して、その馬鹿らしい漢字二文字の雑誌をもう一度見た。自分の盗撮写真と、幼馴染がスキャンダラスな煽り文句とともに並んでいる。そんな煽りをされても青宗はちっとも動じなかった。なぜなら、青宗は一と幼馴染であることを恥じたことなど一度も無いからだ。自分が不良だったことも、そうして彼と相棒として過ごしたことも全部。
「客の入り、悪くなるかな」
「なんねェよ。もともと多いわけでもなし」
「それならいい」
雑誌に載っていた一は、記憶の中の姿とずいぶん違っていた。あの日、別々の道を行くと決めたときから連絡を取っていないから、青宗がその姿を見たのは実に十年ぶりだった。だが、その大人びた姿にさえどこか懐かしいと感じ、青宗は目を細めて極めて微細に表情を緩める。
「まあ、元気そうでよかった」
「こんな記事書かれたんだから、怒ってもいいのによ。オマエは」
「いや、ココが元気なのが分かったし。それだけでオレは別にいい」
堅は何か言いたげに少し口を開けて、それから閉じた。自分もきっと同じ立場ならそう言うと思ったからだ。無敵のマイキー。そう呼ばれた少年の姿が堅のまなざしの向こうに蜃気楼の様に現れ、消えた。
「それだけで、別にどうってことねえよ」
オイルくさい、すこし黒ずんだ手をタオルで拭いて、堅は立ち上がった。青宗は依然としてその雑誌を興味深そうに見ていた。その寂しげな背中を、堅は軽く叩いた。
青い目が、何度も一の輪郭をなぞった。金色の睫が瞬いて、カメラのシャッターを切るようだった。心臓に焼き付いた一の姿と、大人になったそれを静かに重ね合わせていた。