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​ランチタイムの憂鬱

​​(灰はる 同人誌より再録 R18)


 
「なんでオムライスなんだよ」
 三途が文句を言いながらメニューを開くと、竜胆は「いいだろ別に」と呆れたように三途を見た。蘭はデミグラスかケチャップかでずっと迷っているようで、真剣にメニューをめくっては戻して、めくっては戻してをしている。
「反社だってオムライスくらい食う。それともなに? 三途ってヒヨコが可哀想とか思うクチ?」
「ハルちゃん繊細だもんなァ」
 兄弟にそろってバカにされ、三途は思わず大声を上げそうになったが、ここは事務所ではなく至って普通のオムライスの店だ。家族連れも、老人もいる。そういう場ではなんとなくきっちりしてしまうのが三途の元不良らしいところだった。
「そんなわけあるか。ただ、こんな平和の象徴みたいなモンを白昼堂々食おうっていうお前らの神経を疑ったってだけ」
「そんなにおかしいか?」
「おかしくないだろ。三途は気にしすぎだ。反社だって腹は減るし、あったかいオムライスを店で食べたいときもある。なあ竜胆」
「ああそうだ。それで、デミグラスかケチャップかで迷うやつもいる」
「俺のこと? ああちょっと待って、決めちゃうから……」
 竜胆がコールボタンを押そうとするのを制して、蘭はまたメニューをめくっては戻し、めくっては戻しをした。そんなにデミグラスかケチャップかが大事か、と三途は呆れる。
「そんなにか? ソース」 
「この世でいちばん重大な問題だって」
「俺にはわからないんだけど」
「ハルにはわからないよ。この決定の重要さが」
 蘭はずいぶんと迷って、結局デミグラスに決めた。殺しをするときは迷わず殺すくせに、オムライスのソースではこんなに時間をかけるのが、三途には理解できない。
「お前たちがまるで人間みたいなことしてると、頭がバグる」
「失礼だな。俺は頭のてっぺんから爪先まで、人間らしい人間だぜハル。竜胆のほうは知らないけど」
「兄貴のほうがどうかしてるだろ。俺は少なくとも、オムライスにケチャップを選ばないなんていう非人道的行為をしたりしない」
 デミグラスソースは人権侵害だ、と竜胆はシュプレヒコールをあげる。オムライスに人権があるなんて話は見たことも聞いたこともない。どちらにせよ、どっちもイカれた兄弟だということには変わりがない。
「頼むなら頼めよ。もう決まっただろうが」
 やいのやいの言い合う二人を見て、三途は呼び鈴をならす。つきあっていたらきりがない。
「三途はどっちだよ」
「ハルちゃんはデミグラスだろ? 人類の誇りにかけて」
 どうでも良すぎる質問に、三途は淡々と答えた。
「ホワイトソース」
 
 ・・・

 なにが非人道的行為はしたりしないだ。人を玩具扱いしておいて。
「三途、兄貴がいい? 俺?」
「選ぶ贅沢っていうやつだぜ、ハルちゃん」
 ラブホテルの安っぽいベッドに寝転がった三途に、兄弟はオムライスのソースを選ばせるような軽い調子で声をかけた。ああイヤだ。だからこの兄弟と一緒にいたくないのだ、と三途は心中で悪態をつく。そして、そうなることを見越していた自分にも嫌になる。
 この二人といて、ただ飯を食って終わりな訳がない。終わりな訳がないのだが、抵抗することをやめたくはなかった。デミグラスか? ケチャップか? そんなの決まっている。三途が選ぶのはホワイトソース。つまり、セックスをしないということだ。
だが、この兄弟のメニューにはそれはないらしい。
「決まらない? オムライスはあんなに即決したのにな。さっきの兄貴みたいだ」
「あの悩みは人類に必要な悩みだったんだよ。でも、ハルに選ぶ権利なんてそもそもあるかな?」
「ひどいぜ兄貴。三途だって、俺か兄貴か選ぶ権利はある」
「うるせえ! お前らとセックスしにわざわざ今日まで生きてるわけじゃねえよ!」
 ぎゃんと三途が吠えると、竜胆はやれやれと肩をすくめて呆れたポーズをとった。蘭は楽しそうにニヤニヤ笑っている。
「でものこのこついてきたのは三途だろ。俺らハーメルンの笛吹きじゃないんだから」
「どうせセックスしたら、やだやだって言いながら感じまくってメスイキするのに、なんでそんなことが言えんの? おバカなハル」
「るっせえよ。デミグラス野郎も、ケチャップ野郎も。とっととセックスするならしろ。こっちはわざわざシャワー浴びて準備してるんだぞ。しねえならしねえでいいんだ。ヤりたくねえし」
 うだうだとお喋りをするのもおっくうで、三途は開き直ってホワイトソースを諦めた。どうせ男なんてハメて射精したら終わりだ。とっとと愚者から賢者になってもらったほうがはやく事務所に帰れる。
「もっとかわいくハメ請いできないの? 竜胆、俺もっと溶けてからがいいから先頼むわ」
「了解」
 ワイシャツ一枚にパンツだけでベッドに寝る三途に、服をきっちり着たままの竜胆が覆い被さってくる。首筋を舐められてびくりと震えると、「食べるんじゃないんだから」と笑われた。
「俺はオムライスじゃない」
「分かってるよ。でも、首を触られると怖いだろ?」
 竜胆があざ笑いながら、シャツの裾から手を差し込んできた。着ている方がエロいからという理由で、高級なシャツがダメにされようとしている。しかし、三途に拒否する権利は与えられていない。ジャケットとベスト、スラックスを死守しただけましだ。
 竜胆のひやりとした手が、三途の臍あたりから上に這い上がってくる。それは蛇にも似ていた。狡猾な蛇は、この兄弟とそっくりに三途は思えた。ただ、この兄弟が与える理不尽は三途にとって「まだマシ」で、嫌いではなかった。セックスがなんだと言うのだ。口の傷がじくじくと痛むような気がした。この痛みを忘れさせてくれる兄弟は、三途にとってはクスリよりマシな安定剤のようなものだった。
「相変わらずこっちを見ようとはしないな」
 竜胆が、空いた片手で三途の前髪を上げて、その暗い目で顔を覗き込んだ。
「見つめ合ってセックスなんて、恋人じゃあるまいし」
「俺とは恋人になれないって?」
「〝お前ら〟とだ、あっ……。あ、さわ、ンなッって」
 裏返った声に顔を赤らめて三途が身をよじろうとすると、竜胆の左右の足ですっかり挟み付けられてしまう。完全に征服されてしまった三途は、押し殺すように小さく喘ぎながら逆らえない快楽に身をゆだねた。
「む、ねっ……ばっか、だめ、ダメだッ、ってえっ」
「こんな少し触られただけで気持ちよくなって、三途は物覚えがいいな」
 くりくりと乳首を弄る手を引き離そうとしても、力がうまく入らずに終わった。ぴくぴくと足を震わせ、感じ入る三途に、ベッドサイドに座り込んで見ていた蘭が揶揄するように声をかける。
「ハル、見てるだけの俺にもサービスしてくれよ。今、どうなってる?」
「む、むねっ、えっ……がっ、あっ、だめだめ、ひっぱんなぁっ」
「三途、胸じゃねえだろ。もっとエロい言葉で言って」
「おっぱい……っ!」
「そう。おっぱいがどうなってるの?」
「さわられて、おっぱいぎゅって、されてぇっ……。さきっぽ硬くして、ぼっきして、気持ちよくなって、るッ」
 竜胆に乳首を執拗に弄られながら蘭と交互に問われ、三途はIQの低い回答をするしかなかった。二人は、三途のそこが度重なるセックスで弱くなっていると熟知していた。知ってなお、三途に説明させた。普段口にしないような下品な言葉を言わせるのは二人にとってこの上ないセックスの楽しみだからだ。
 喜悦に喘ぐ三途の口を、竜胆が塞いだ。
「ン、ンッ……。は、あっ、ンむっ……」
「キスされると弱いね。顔が溶けてる」
「う、るっせえ、ら、ンッ……。ふっ」
 蘭に顔の緩みを指摘され、反論しようとしたが、その声は竜胆の口の中に飲み込まれる。熱い舌が歯列をなぞり、三途のそれを絡めとる。粘膜同士の交合に、三途は感じ入って両膝をすりあわせもがき喘いだ。
「なげえよ、キス!」
「気持ちよかったくせに。処女抱いてるみたいで興奮するけどな」
「処女厨め」
「勃起しといて言う台詞じゃねえな」
 悪態を一蹴して、竜胆は三途の下着をゆっくりと引き抜いた。それから三途の体を起こすと、自分の膝に座らせた。
「兄貴も後ろ来る? まだダメか」
「二輪差しはイヤだぜ」
「俺だって兄貴とセックスは御免こうむる。触ってやってってこと」
 竜胆の言葉に、蘭は「いいよ。触るの好きだし」と返して三途の背後に回る。竜胆は白い尻を持ち上げると、勃ちあがった性器を三途に挿入した。
「あ゛っ! いきなりっ、はァっ……!」
「こっちも限界なんだよ……ッ。三途、ナカ締めすぎっ。オナホよりキツいって」
「優秀な肉便器じゃん。俺ともキスして」
「~~~~ッ、ンッ、ンンっ」
 ずぱん、と潤滑ゼリーをかき分けて直腸内に竜胆の性器が完全に埋め込まれるのと、三途が蘭に唇を奪われ声もなく射精するのは同時だった。
 挿入されただけで達してしまった三途を、息をする間もなく竜胆が責め立てる。ごりごりと裏筋で前立腺を擦られ、奥を突かれて身も世もなく三途は乱れた。
「あ、ああっ。バカっ、いっ、った! ぁ、イッた、あんっ、か、らぁっ」
「俺はまだ、イッてないってのっ」
「りんど、あっ、あっ、やだっ。りんど、りんどう……」
 ぼろぼろと涙を流して三途はもだえる。泣くのなんて、セックスの時くらいだ。笑ってばかりで、泣き方など忘れた三途が涙をこぼせるのはこの兄弟の前だけで、それ以外はない。ないはずだ。
「俺のことも呼んで」
 蘭の手が、下腹部へと伸びる。射精したばかりの陰茎を握られて、三途は足をぴんと伸ばし、はくはくと酸欠の金魚のように息をした。
「らんっ。蘭、さわんなっ、ああッ……イク、またイクから、ァ」
 竜胆にばちゅばちゅと腰を打たれ、蘭には鈴口を弄られて三途はまたイッた。二度目の射精は緩やかに精液をこぼすのみで、勢いがない。
「ハル、今どうなってる?」
 また、蘭が問いかける。蘭はわざわざどういう風になっているかを三途に実況させるのが好きらしかった。毎回淫らな言葉を言わせられ、辱められる。
「どうっ、ってえ……。どう、ううっ。竜胆、にっ。犯されてるっ。はらンなか、奥まで、ごりごりって、されてるっ。きもちっ、きもちいいっ。あ゛っ、はあっ……」
「兄貴には、なにされてる?」
「らんっ、ンッ! にはっ、ちんこっ。さわられてっ、るっ」
 はあはあと息を荒げながら、竜胆が三途の奥を一際強く突き上げる。そして、びゅうびゅうと長く、女なら着床してしまうくらいの量の精液をナカに射精した。それを体内で感じて、三途は目を伏せてまた軽く達した。ぴゅく、と力ない精液がまた出る。
「はあ……。ナカで出しやがって……」
 ずるり、とペニスを出されるのも気持ちが良くて、文句を言いながらも三途は熱い息をこぼした。やらしい、と蘭がまた笑ってののしる。
「春千夜、俺も入れて」
「蘭、バカ。ちょっと、待って」
「ヤだね。竜胆、前頼むわ」
「やめっ、ろ、お゛ッ」 
 蘭は三途の腰をひっつかんで、自分の方に引きずりこんだ。慌てる三途をよそに、まだぬかるんだそこに蘭はスラックスの前を開けて挿入する。
「あ、入って、くるっ」
「まだきついけど、何回かイッたから出来上がってんね~」
 べしゃ、と前のめりに倒れた三途の顔に、竜胆のまだゆるく勃起したままの陰茎が擦りつけられる。白い頬に、赤黒いそれはよく映えた。
「しゃぶって」
「ん、ぶっ。ン、ンんっ」
 蘭のピストンで揺れ、不安定な中、三途はそれに懸命に舌を伸ばす。裏筋をたどって先端のくぼみに吸い付くと、ずんと性器が硬くなった。その、きれいな顔が雄の象徴に奉仕する姿を、兄弟は楽しそうに見ている。
「しゃぶるの似合うなあ。そんなに竜胆のちんぽ好き?」
 浅いところをゆるゆると甘く攻めながら、蘭はわざわざ三途の羞恥心を煽るようなことばかり言う。竜胆も竜胆で、三途の頭を撫でながら、もっと、とねだった。
「ふぅう、んぶっ。はあっ! ハメられたまましゃぶるなんて、無理にきまってンだろうが」
「じゃあ顔にかけるわ」
「最低ッ、ぁ! きゅ、うにっ、はやく、なるなあッ」
 硬く太いそれが、ピストンをはやめる。獣の姿勢で、三途はシーツをかきむしった。ぎゅうと爪先が丸まって、快感に耐えようと力が込められる。
「あ゛っ、あっ、あああああ~~~~……っ。やだ、イく、またイくっ」
「メスイキになってきてエロいねえ。ハルちゃん」
「う、うううっ。ずっと、ずっとイッってるっ。ヤダ、お゛っ、ふう゛っ」
 もうしゃぶれもせず深くイく三途の顔に、竜胆はべしゃりと精液をぶちまける。きれいなものを汚してしまうのはどうしてこんなに気持ちよいのか、と竜胆は思った。蘭も同じくそうだった。性に溺れ、時に恍惚とした、時に苦悶の表情を浮かべる姿は、普段笑っているときよりも人間らしく彼らには見えた。それが面白く、愚かで、好ましい。
 だからやめられないのだ。
「あああっ、イくっ、イっ、もうイッてるからぁっ」
 前立腺を押しつぶされ、雄に媚びる肉をもみくちゃにされて、三途は悲鳴じみた嬌声をあげた。もう自分がなにを言っているかも、どれくらいイッっているかもわからない。いつのまにか股をびしゃびしゃにぬらしているのは精液ではない何かだ。
「く、うう……。あ~無理。もう出るかも、出すよ、ハル、出すッ」
 力強く、ずん、と蘭は腰を押しつけると、中に射精をした。三途はしばらく、自分が宙に浮いているのではないかと思った。腹の中で、蘭と竜胆の精子が混ざり合っている。ありもしない卵子を求めてケンカをしているのだろうか、と想像した。
 
 ・・・

「あの店、うまくなかったね。さほど」
 シャワーを浴びてきた蘭が言う。すでに服を着直した竜胆が、「確かに」と同意した。
「有名店とかより、結局チェーン店のヤツが旨いよな。なにごとも」
「贅沢ものどもめ。一生コンビニの店のオムライス食ってろ」
 三途が悪態をつくと、蘭と竜胆は顔を見合わせて笑った。何笑ってるんだよ、と三途は怒る。
「ハルに戻ってきちゃうのも、こういうのと同じなんだろうなって」
「ハア?」
「男も女も抱いたし、そりゃしようと思ったら高級な娼婦だって好きにできるけど」
「セックスするなら三途なんだよなあ」
「バカにしてんだろ、ヤリチンクソ野郎どもが」 
 兄弟揃ってうっとうしい奴らだ。そんな安い人間になった覚えはないと三途はさらに怒って、枕を二人に投げつけた。

                                   終
    


 

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