ワットイズラブ
(UT サンパピ パピフリとサントリ表現あり)
「フリスクと別れたんだって?」
家に帰ったサンズが、少し元気のなさそうな弟に聞くと、弟は巻いたスカーフをいじくり回しながら「うん」とだけ答えた。
「まあいいじゃないか。そういうこともある」
気落ちしたようすのパピルスの隣に座って、サンズは少し高いところにある肩を抱いた。古い緑のソファは二人分の体重をかけるときしんで、今にも壊れそうだ。それだけ二人がスノーフルで過ごした時は長かった。
その長い時の間、パピルスはニンゲンというものに憧れ続けていた。ニンゲンとトモダチになりたい、と小さな頃からしきりに口にしていた彼に、とうとうほんもののニンゲンのトモダチが出来たのは長い長い一生のなかでほんの、ごく、最近のことだった。
そのニンゲンはフリスクといって、パピルスのパズルに付き合い、どの魔物も殺さず、犬をかわいがるという、それはもう心優しいニンゲンであった。
そのニンゲンと恋愛関係になった、と聞いたときは、弟もやるものだとサンズは思ったモノだが、こんな秒速で破局していたとは。だって、今日付き合い始めたばかりだというのに。
「兄ちゃんボクはさ。フリスクとなら、トモダチ以上のなにかになれると思ったんだ」
なにも映さないテレビを見ながら、パピルスは話した。トモダチのその先にまだ関係があると知ったとき、パピルスはこどものような無邪気さで、それを求めた。だが、それはパピルスの求めたものではなかったと、踏み入れて初めて分かった。
サンズは背中を叩いて、「まあ、そうだな。顔を見ない方がいい相手っていうのもいるし。メールだけしてた相手にいざ会ったら、とんでもないバケモノだったりしたら、いやだろ?」とわざとおどけて励ます。
「とんでもないバケモノだったら、逆に会ってみたいけどね!」
パピルスはニャハハ、と笑った。もうそのバケモノに会っているんだ、とはサンズは言わなかった。ニンゲンは、パピルスの思うようなものではないと言えずにサンズはもう何年も生きている。
「とにかく、まあ。やってみたらちょっと違ったみたいな。フリスクといるとドキドキするけど、それはレンアイってやつじゃなかったんだ。ザンコクなことをしちゃったよ。だって、フリスクは絶対にこのパピルスさまに首ったけだったんだもの」
落ち込む方向性が、前向きなのがパピルスらしいところだった。パピルスは、続けてサンズにこう問いかける。
「兄ちゃんはさ。コイビトっていたことあるの?」
「うーん。オイラには、そういうのはいないな。だって、年がら年中オマエの面倒見てるのに、できる暇なんかないだろ?」
サンズは笑う。しかし、パピルスはこの兄が家を抜け出して遺跡に足繁く通っているのを知っていた。だからそれは嘘だとなんとなく思った。だが、口にすることはしなかった。なんとなく、サンズはそこで〝レンアイ〟をしているような気がしたからだ。レンアイはプライベートなことだから、パピルスはあえて聞くことはしない。
ただ、そうやってごまかされるのはすこし寂しかった。兄弟も、キョウダイ〝アイ〟と言うのに、レン〝アイ〟の方が優先されるのはなぜか、と考えた。それは図書館に通ってもわからないことだった。
「違うよ、ボクが兄ちゃんの面倒をみてあげてるの。スパゲッティも作ってあげたし」
「ああ~。もう今日オイラ、食べてきちゃったんだよな」
「もうッ。そうやっていつもごまかして!」
いつも通りに戻った二人は、自分の部屋に逃げようとするサンズをパピルスが追いかけてドタバタと部屋を駆け回る。そのままバターになって溶けあえたら、キョウダイアイはレンアイになるのだろうか、とパピルスはこの間読んだばかりの絵本のことを思った。サンズはきっと、教えてくれない。