告白できない男
(りか→いお テラくんもいる)
「テラさん、私は思うんですよ。なんで私はA型じゃないのかって」
突然、理解がそう言い出したので、テラはめんどくさい顔をして晩酌の手を止めた。理解は当然白湯を飲んでいるので、酔っ払っているわけではない。まあ、常に酔っ払っているようなことばかり言う男だが。
「何型よ?」
「B型です」
「わあ、イメージ通り」
「そのイメージが気に食わないんですよ。そもそも、血液の型で性格が分類できるわけがない。なのにですよ、私がB型というだけで! 自己中心的だなんて言われてしまってはかなわないわけです」
まるで演説するかのように理解は朗々と語った。テラは嫌そうな顔を崩せず、いやあんたどっからどう見ても自己中心的でしょ、と言った。
「私が自己中心的? いえ、どちらかというと献身的ですよ」
「献身なら本橋依央利でしょ。専売特許じゃない」
「依央利さんは確かに献身的で素晴らしい方です」
「急に褒め出すなこいつ」
「奴隷ではなく妻にしたいくらいで」
「妄言はいい加減にしろ草薙理解」
ダルがらみにうんざりしたテラは、ワインをぐいっと一気に煽った。そうでもしないと、この自己中クソルール厳守野郎の話は聞けない。理解の依央利に対するそういうのろけのようなものも、しょっちゅうになれば恋愛ごとに興味のあるテラにしても話半分になる。
「依央利さんもB型でしょう? 彼がB型なんですから、やはり世の中のパブリックイメージは間違っていますよ」
「いや~~、テラくんはあの子断然Bだと思うけどなあ~~」
他者に献身を押しつける態度が、自己中心的でなければなんというか。奴隷契約書に捺印を迫る姿なんかもろにそうじゃないか、とテラは思う。
「でも、いいですよね。同じ血液型」
「急にハンドル切るじゃん」
「私は純然たるBB型なのですが、依央利さんもBB型なのでしょうか」
「いや知らんけど! だったらどうなの」
テラは頬杖をついて、じとりと理解を睨んだ。もうこいつの言いたいことが分からなくなっている。いや、元から分かる方が難しいのだけども。
「純血っぽくていいじゃないですか。秩序正しい純血! いいですね、子どももBBですよ」
「いや子どもはできんでしょ」
「依央利さんなら出来るような気がして」
「できねえよ!」
ばん、とテラは机を叩いて、立ち上がった。白湯でこんなにも酔っ払えるやつがいるか。いや、目の前にいる。
「テラくんはさ、思うんだけど。あんた付き合ってないんだよね?」
「お恥ずかしながら」
「付き合ってないのにそれなのヤバいって」
「いずれ告白、5年の交際を経て結婚しますので……」
「もう告白しろよ! ていうか告白したらOKしてもらえるって性格的に!」
テラは頭を抱えた。なんで告白してないのに結婚が先に出るのか。ていうか5年の交際は長くないか? こんなひどい童貞こじらせ男に粘着されている依央利が可哀想だと思えた。
「それはダメじゃないですか。依央利さんのカリスマに付けこんで交際するのはよくない」
「その倫理はあるんだ、すごいね逆に」
「私はねテラさん。依央利さんに自然に、当然のように好きになって欲しいんですよ。強要したいわけじゃない」
「急に真面目。見直しちゃったじゃん」
理解は手元の白湯に映る自分を見つめた。確かに、テラの言うとおり告白さえすればOKして貰えるだろう。だが、それを理解は望んではいない。普通の人間がするように、普通に恋愛がしたいのだ。
「だから告白できないんですよ。代わりに、最大限優しくします。依央利さんのことを第一に思います。けど、告白が出来ないんです」
理解は切なげに笑った。テラは報われるように、と思い、「まあ、いいんじゃない」とだけ言った。