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​神様だって恋をするの

​(SV オモオキ)



「トップって人間じゃないみたいだ」
 だれかが頻繁にSNSでそう言っているのをオモダカはよく知っている。人間じゃないみたい、というのは褒め言葉なのかそれとも貶しているのか分からない言葉だが、オモダカは自分自身がリーグのトップの権威そのものであることを「人間じゃないみたい」と言われるのは悪くない思いだった。それでポケモンリーグの安寧が保たれるなら、良い。そういう判断であった。
 とはいえオモダカも人間であるから、メシを食う。寝る。そして、人を好きになる。当たり前のことをする。だから、家にやって来たアオキの靴を隠してしまったのも当たり前のことだった。
「靴が……」
 食事を終えて帰ろうとしたアオキが、おかしい、と首を捻るのをオモダカはニコリと見ていた。
「アオキ、靴がありませんね」
「はい、どこにやったんですか」
「泊まりますね」
「泊まりませんよ……女性の部屋に……」
「でも靴がないですから、帰れませんね」
 狼狽えるアオキに、オモダカは畳み掛ける。自分で隠したくせに、なにも知らないふりをしてオモダカは笑う。アオキは、からかわれているのだと思って、このいたずらずきの上司からなんとしても靴を取り返さなければならなかった。
 泊まるわけにはいかない。そんな、上司で、女性の家に泊まるなど、アオキの常識が許さなかった。
「隠したでしょう。勘弁してください」
「だって、アオキともっと一緒にいたいのですから仕方ないでしょう。あなたはいつも食べたらすぐ帰ってしまいますね」
「それは、すみません。でも、自分と過ごして楽しいことはないでしょうし、帰るべきかと……」
 そこで、ずい、とオモダカが顔を寄せてアオキのネクタイを引っ張った。く、と近づく距離に、アオキは目をそらす。
「帰るべきどうかは誰が決めるものでもないでしょう、アオキ」
「あの、近いです……トップ……」
「これくらい近くても、私は構わないというのがご理解頂けませんか?」
「理解しかねます」
 靴を返して、とか細い声で続けるアオキを、なんとあいらしくいたいけなのだろうとオモダカは嬉しく思いながら、「いやです」と言った。
「アオキ、私は食事以外もあなたと映画を見たり、ただ話したり、手を繋いだり、セックスしたりしたいのですよ」
「さ、最後だけは許してください!」
 セックス、という言葉にすっかり怯えてしまったアオキは、子犬のような目でオモダカを見た。ああ、なんとかわいい、とオモダカはいっそうこの男を困らせてやりたくなる。
「アオキ、そんなにいやなら、わたしがトップをやりましょう。あなたは寝ているだけで大丈夫ですよ」
「そ、そういう問題ではないのでは」
「そういう問題ですよ。かわいいアオキ、もっと困ってください」
 そうしてオモダカはアオキのかさついた唇にキスをした。アオキはそれだけでもうキャパシティを超えたという風になって、うつむいて「とにかく、靴を……」とだけ返した。
 靴はどこにももどらない。オモダカはゆっくりとアオキをはなすと、窓を開けてかくした靴を外に放り投げてしまった。靴は弧を描いて夜の街に飛んでいって、消えた。
 

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