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​Love

​(いちへし)

「お前、俺のことを愛していないだろう」

 長谷部殿がまたふざけたことをおっしゃるので、私は飲んでいたお茶を机の上に置いて、何をばかなことを、と返しました。

「何をばかなことをおっしゃいますか。私があなたを愛していないはずがないでしょう」

 うじうじと女の腐ったようなことを言う長谷部殿に呆れた気持ちになって、つい睨みつけるような視線を送りますと、長谷部殿は私の言葉を全く信じていない、というふうな表情で、

「言葉だけならどうとでもなる」

 と続けますので、私はいよいよ腹が立ってまいりまして、

「私のことが信じられないと?」

 と返しました。我ながら、低い声が出てしまったように思います。

 長谷部殿はそれにもまったく動じないご様子で、目をうっすらと細めて、

「だって、お前、俺が死んだってかまわないと思っているだろう?」

 そう問いかけてくるのでした。

 考えてみますと、確かにそうだ、と思えるのです。私は長谷部殿が死んだとしたって、長谷部殿を変わらず愛せる自信がございましたし、長谷部殿だって、死んでなお、私のことを愛すだろう、と思われました。

 ならば、生にこだわる必要もありますまい。私がそう申しますと、長谷部殿はつらそうに笑って返すのでした。

「そういうところだよ、一期一振」

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