賞味期限なんかくそくらえ
(チリオキ R18)
「人間には賞味期限があります」
アオキはそう言って、チリを受け入れなかった。「はあ?」なにいっとんねんこいつ、と言いたげに柳眉をひそめるチリを無視してぼつぼつと喋るアオキは、とくせいマイペースといったところだ。
「ほら、食べ物だって賞味期限があるでしょう。食べたらおなかを壊すかもしれませんし……。ふつうだったら食べたりしない」
「ソレが人間にもあるって?」
「ああ、はい。あなたはまだ若いし、そういうのが解らないかもしれないけれど、人間は老いますから……」
「チリちゃんをバカにしとるん? 人間が年取るくらいガキでも解るわ」
ふん、と拗ねたようにチリは怒った。自分だ何度も好きだ愛しているといっているのに、のらりくらりとはぐらかして一向に受け入れないアオキがイヤなのだ。
「だから、人間が年を取ったら賞味期限がくるんですよ。あなた、老け専ってわけでもないのに、自分なんかに構うのはよしたほうがいい」
「ハア~~~~~!? チリちゃんバカにしとるよな、ほんまにアンタいっつもそやわ。フケ専上等や、好きやって言うとるのになんで信じてくれんのか訳分からん。あんたが賞味期限きれた男だってだれが言うたん。は~~! アホ!」
「阿呆でいいですよ」
チリとアオキが言い争うのはこれが初めてではない。酒の入った勢いで口説いて、フラれてはチリはごねにごねるのだ。アオキの簡素なアパートメントで、クッションを抱きしめてこどものようになっているチリなど、四天王兼おそろしい面接官として想像している学生達は知りもしないだろう。
「な~にが賞味期限や。消費期限が切れとっても食ったるわそんなん。アオキさんはほんまにそやんなことばっか言ってチリちゃんの言うこと何も聞いてくれんなァ!」
あぐらをかいて、ぶうぶうとチリはひとしきり文句を言った後、ほいとクッションを放り投げて座って缶ビールを飲むアオキのネクタイをひっつかんだ。
「ええ加減にせんとほんまにくうで、アオキ」
「……賞味期限がきた男を食えるかって聞いてるんですよ」
じ、と二人の目線が重なった。さっきまでうるさい子どものようだった女が、獰猛で妖艶な雰囲気を出してアオキを見ていた。アオキも、黒目がちな目でじっとりとチリを見つめる。二人の唇が重なるのはそう遅いことではなかった。
「ええ味しとるやん」
「悪食ですね」
舌がからみ、深く濃厚なキスをしたあととは思えないからっとした表情で、チリは笑った。苦々しげにアオキは目をそらす。
「なあ、好きや。アオキさん。アンタがどうベッドで乱れるのか、知りたいんよ」
「悪趣味すぎますよ……。準備をするまで、マフティフのように待てますか」
「ああもちろん。ずうっとまっとったけえなあ」
・・・
寝転んだアオキのネクタイを外す。クリスマスのラッピングをほどくように、チリは高揚していた。シャワーを浴びてなおまだ普段のスーツ姿で出てくるのはただチリを喜ばせることにしかならない。
丁寧にカッターシャツの前のボタンを開けてやると、やせぎすの壮年男性のからだがでてきた。それがチリにはどうにもたまらないごちそうに見えた。
「うまそやな、ほんまに」
アオキは答えない。上半身を裸にされて、羞恥を感じているのかもしれなかったし、ぼんやりとしたアオキのことだからなにも考えていないのかもしれない。
「ずっと触ってみたかったんよ。アオキさんはどや? チリちゃんに触られたかった?」
「触られたかったか、ですか」
もじ、とアオキはまだ着衣のままの膝をすり寄せて快楽を逃しているようだった。その、処女の様に貞淑に乱れる姿がチリの性欲を煽った。
「なあ、アオキさんネコなんやろ。普段どうしてオナニーしとるん? それとも相手がおった?」
「言ったじゃないですか、賞味期限がきた人間なんか、抱いてくれる人などいませんよ」
「昔の男に嫉妬やな。こんなええ男捨てたん?」
「捨てたとか捨てられたとか、別に誰と付き合ったこともありませんよ。ましてや、セックスなんて……」
マアそれは、こんなええ女のために処女とっといてくれて感謝やんなあ、とチリはたまらなくなり舌なめずりをした。たしかに内向的なアオキがだれかと……とは考えにくかったが、ほんとうにそうとは。うれしい誤算だった。こんなに熟れるまで放っておいてくれて。どうもな、と知らぬ男どもに感謝をしながら、チリはアオキの胸に舌を這わせた。
「あ、」
すこしうわずった声がアオキから上がる。感じているようだった。女でもこんなにすぐ感じないだろう、といった具合だったから、普段から触っているのだろう。チリにもそういう想像がついた。
「アオキさんさあ、ほんまにドスケベやな。乳首触ってモーソーしとったんや。誰かに犯されたい~って? ムラムラしてた?」
「そんな、そんなことないです。うっ、ああ……あまり、つよく触らないで……」
「ほんなこと言うてもな、もうこんなんおっぱいと変わらんよ。オナニーのときさわっとったんやろ。こうやって誰かに舐めて貰いたいって思いながら……ほんまマゾやなあ」
成人男性のさして大きくもない乳首を、尖るまでチリは丁寧に舐め、空いたほうは指でくすぐった。するとアオキが身も世もないというふうに善がるので、チリはうれしがってまたそこにしゃぶりつく。
じゅぱ、だとかちゅば、だとかいやらしい音がアオキの耳を犯す。それだけでもうひどく羞恥に襲われ、顔を赤くしてイヤイヤと首を振った。それでもチリの肩に置かれた手にはなんの力も入っていないのだから、つまり、察するところは真反対であろう。
「はあ、アオキさんかわええなあ。胸さわられたくらいで、こんなんなって。準備してきとんのやろ? お尻まで触られたらどないなってしまうんやろなあ」
すり、とまだ履いたままのスラックスを撫でられて、びくん、とアオキの腰が大げさに跳ねた。ローションが仕込まれたそこが、つまり、チリに触って貰うために準備されたそこがぎゅうとうずく。
「今日は指だけな」
耳元で、チリがかすれた声で言う。次があるのか、いやないだろう、とアオキが抗議する間もなく、スラックスを脱がされてしまう。グレーのボクサーには、はっきりと先走りがにじんでいた。それを見て、チリはにんまりと笑う。
「賞味期限切れどころか、真っ盛りやんけ」
乳化したローションが垂れる後穴に、チリの丁寧に手入れされた細長い指がずぶずぶと入っていく。はじめは狭いもんじゃなかったっけ、とチリは思うが、それはアオキが相当底を独りで使い込んでいるということの証左でもあった。
「ドスケベな穴しとるなあ、アオキさん。チリちゃんのおててもうこんなに入ってもうたわ」
「誰がドスケベな……ン、ぅうっ……は、あな、ですかっ……あっ。そこ、くうっ」
「ここ気持ちええ? ほないっぱい触ってあげよな」
「あぁ、あ、あ、あ、ううう、あな、あなた……」
「チリな」
「チリ、そこダメです、くうっ……うっ……。同じところばっかりぃ……!」
素直に名前を呼び、きもちいいと訴えるこの男がチリは愛しかった。股の間に入り込んだチリを逃がすどころががっちりと両足で抱え込んで、シーツをにぎりしめ仰向けで快楽を散らそうとするアオキはどうにも目の毒だ。チリも興奮して下着が濡れているのを感じる。ああ、何故自分には男根がないのだ、と思わざるを得ない。こんなあたたかくて、やわらかいところにいれることができたらどんなに気持ちがいいことだろうか。
女に生まれたことを損しているとは思ったことはないが、この男を、男が求めるようにしてやれないことに関してはやりきれない。
「前立腺いいこいいこしたろな、アオキさん」
「ううう、ひいっ。いく、いきますから。チリ、ぁ、あああ、くっ、うううう……」
「はあっ。イク? アオキさんイクか? なら想像して。チリちゃんのが中に入って、アオキさんのいちばんおくで出すとこ…………」
空いたもう片方の手で、チリはアオキの下腹をぎゅうぎゅうと押した。想像でも、射精してやりたかった。アオキの一番奥の奥で、欲望を放ってやりたい。チリは犬歯をむき出しにして、獰猛に笑って囁いた。
「ほら、アオキさん想像やで。チリちゃんのぶっといのが、アオキさんのダメなとこ入っていく。ぎゅうっておなか押されて苦しいやんな。でも我慢や。いちばんおくのおくで、ぜ~んぶ出してもらえるまで……」
「はあ、は、あ、ううう、あ、ぁあ、チリ、ばかみたいなこと、やめっ」
それでも体は正直だ。悪態をつこうとも、アオキの後ろの穴は媚びるようにきゅうきゅうとチリの指を締め付けている。
「ほら、出すでアオキ! ナマで奥までぶっかけたるからな! 受け止めえよ!」
「ひ、あっ……! もう無理、無理ですっ。解りましたから、だしてください……!」
ぱしん、と軽く尻を叩いて、チリは指のうごきを一際激しくした。ぎゅう~~~~と押され、わけもわからなくなったアオキはほんとうに自分の中にチリがいるつもりになって、暖かさと圧迫感を感じながら、絶頂した。
ぱたぱた、と絶頂したアオキの陰茎からは先走りが垂れている。メスイキをしたのだ。どんだけ体しあがってんねん、とチリは興奮まじりに嘆息した。
・・・
「は~~~~、セックスしたい」
シャワーからあがるなりチリがそんなことを言うので、アオキは驚いて着替えの手を止めてしまった。いぶかしげにチリを見ると、へら、と彼女は笑う。
「だって挿入できんかったんやもん。チンポでめちゃくちゃになっとるアオキさんまだみとらんし」
「一生見ないでください」
「賢者タイムか? あ~んなにかわいくチリ、チリって呼んでくれたんも忘れてしまうん? ていうかアオキさん仕上がりすぎやねん、ドスケベサラリーマン。想像でイくやつがおるか」
「あなたがさせたんでしょうが……」
アオキはぼうと手元を見る。なにかすごい体験をさせられてしまった気がする、と思って、ため息しかでない。
「まあ、それもそやな。アオキさん、全然賞味期限きれてなかったし。ごちそうさんでした」
チリは上機嫌にアオキにキスをして、勝手に人の布団で寝てしまった。まんまと食われてしまった中年は、まだうずく下腹部を押さえて、赤面するしかなかった。