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​輪廻の先で会いましょう

シドミコ 現パロ 不穏


「セックス、好きなんですよね」
 シドウは、ミコトに向かって気怠く言って紫煙を吐いた。セックスの名残がまだ消えないホテルのベッドで、眠気を催しながらミコトはこのいつも疲れたような態度の年上の男に向かって「なんで?」と聞く。
「シドウさんって、そういうイメージ無いのに」
「俺だって清廉潔白ってわけじゃないんですよ。イくとき、死ねるような感じでいいじゃないですか」
「あー、そういうね」
 ミコトは納得して、相づちを打った。死にたがりの妄言に付き合うのも、もうずいぶん慣れてきた。だいぶこの人も今日はバッドだな、と思いながら、ミコトは「僕もまあ、シドウさんとするぶんには好きですよ」と合せた。
「別に、俺だけじゃないでしょう。君は」
「ええ、そんな軽薄に見えます? 僕。心外だなあ」
「榧野くんは若いから」
「そんなに変わらないでしょ」
 軽口を叩きあうとシドウは薄く笑って見せて、それから、「今日も死ねませんでしたね」と続けた。ミコトは自分の首についているだろう痣を考えて、「そうですね」と言う。
「まあ、締められると気持ちいいし。でも僕が本当に死んだら、シドウさんどうするんですか? 一人で死ぬんすか」
「うーん。そこまでは考えてなかったですね」
「無計画だなあ」
 意外と几帳面というより大雑把な所のある相手に、ミコトは笑う。シドウはミコトが就職活動でうつになっていた時期、掲示板サイトの、いかにも怪しい自殺板で出会った男だが、ずっと死なずにセックスフレンドのようなことを続けている。
 ミコトがもうはんぶん立ち直って、死ぬというのを半ば冗談の様に使うようになってしまったからというのもあるが、それを捨てないシドウも悪い。ほんとうに死にたいのなら、勝手に死んでしまえばいいのに、シドウは「一緒に死にましょうね」と言う。それっていつ? とミコトは思うが、ずるずると続ける関係もお互い心地よいというのだからたちが悪い。
「シドウさん。練炭とか用意したほうがいいんじゃないですか? 練炭自殺」
「ああ、練炭にしますか。次は」
「でも、僕たちが見つかったら、どう報道されちゃうんだろ。医者とデザイナーが心中ってどう?」
「恋人関係にあったとか、書かれるんじゃないでしょうか。そういうストーリーを考えるの、週刊誌は好きそうですし」
「えー、やだな。僕」
 ミコトが口をとがらせると、シドウは「恋人、俺は嫌じゃないですけどね」と言った。次会うときはもう死ぬかもしれないのに、シドウはいつもミコトにその次を期待させるようなことを言う。
「それってでも、輪廻が巡ってから恋人になりましょう、とかいうアレだろ。はいはい」
「なんで分かったんですか?」
「シドウさんの手口なんか分かってるの、こっちは」
 こんな男に捕まったミコトが悪いのだ。ほんとは。ミコトは拗ねた態度で布団に潜り込んで、そのまま寝てしまった。
 
 

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