難攻不落のテッペキ要塞
(カリスマ りかいお)
「私はね、依央利さん。あなたが好きなんです」
「理解くん、ぼくの事好きなの? ふーん」
そうやって依央利は何度目かの理解の告白を、料理をしながら流した。
流しに捨てられるナスのヘタのように、ぽいと投げ捨てられる理解の恋心であったが、理解は諦めることはない。なぜなら、理解はいつも自分がただしいと思いこんでいるからだ。自分の主張が間違っているとは露とも思わないその姿勢に、外から見ていた慧はしかめっ面をしてため息を吐いた。
「理解、諦めろ。いおが受け入れるわけねえだろ」
「ハァ〜!? 猿! バカ猿には恋愛などわからんだろう。私と依央利さんのことに口出ししないで貰いたい」
「いやオマエの一方的なヤツだろそれ。おい、いお! 理解がオマエのこと好きだってよ!」
慧がそう投げかけると、依央利は興味なさそうにキャベツを高速で千切りしながら、「そうらしいんだよね」と曖昧に返した。
依央利は自分のことに興味がない。奴隷を召し上げたいなんていう奇特な人間かいるとは思わないし、たとえいた――理解のように――としても、まず「国民の」奴隷たる依央利がうんと素直に言うはずがないのだ。
まるで、恋愛禁止のアイドルグループのセンターのように、依央利は誰も愛さない。愛さず、ただファンサービスのように平等に奉仕する。その輝きは遠い星のように、理解を照らす。
「らしいではないのです依央利さん! この理解は、正真正銘、本気であなたが好きなのです!」
「そっかあ」
「そっかあじゃなくて!」
ダンッ! と足を踏み降ろし、理解は悔しがった。慧はこの拗れに拗れた恋愛模様に呆れてものも言えず、雑誌を読みながらポテトチップスを食べる作業に戻った。付き合いきれない。
理解は、その名前のくせに一向に依央利のカリスマ性や性格を理解しないので、通用しない愛ばかり捺ささいては玉砕する。慧に言わせれば、「奴隷なんだから命令すりゃいいだろ」ということなのだが、理解はソレでは駄目なのだとワガママばかりだ。
「依央利さん!」
「なあに? 理解くん」
「好きです!」
「うん。野菜炒めちょっと食べる?」
「食べません! つまみ食いは倫理的にノーです! ああ依央利さん、どうしてそうなんですか」
「どうしてって言われても、ぼく奴隷だし」
依央利は困ったなあという顔をして、野菜炒めを盛り付けた。理解は、ああ好きだなと思ってその横顔をうっとりと眺める。
「好きだ……」
「うん」
溢れる「好き」も、依央利には効果がない。うん、とだけ言って、それだけだ。しかし、理解も諦めない。堂々巡りは続いていく。
慧は、こいつらどうにかして付き合わねえかなあ、そのほうが面倒が少ないのになあ、と思いながら、ポテトチップスを口に放り込んだ。